東京地方裁判所 平成7年(特わ)2207号 判決 1996年1月19日
本籍
埼玉県浦和市大字三室三四三一番地
住居
右同所
会社役員
望月芳太郎
昭和二二年二月一五日生
右の者に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官長島裕、弁護人山田修各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一〇月及び罰金一二〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金三〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人望月芳太郎(以下「被告人」という)は、東京都北区赤羽二丁目一六番一号(平成二年八月二九日以前は埼玉県川口市芝富士一丁目六番一〇号)に本店を置き、スナックバー・キャバレーの経営等を目的とする資本金五〇万円の有限会社ワイ・エム観光の取締役(平成三年一〇月三日から平成四年三月一五日までの間は実質的経営者)として同会社の業務全般を統括していたものであるが、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上
第一 平成元年八月一日から平成二年七月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額(別紙1の1の修正損益計算書参照)が七九二七万四七〇七円であったにもかかわらず、平成二年九月二八日、東京都北区王子三丁目二二番一五号所轄王子税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二九九万七五八九円で、これに対する法人税額が八六万一三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成七年押第一五四六号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三〇八二万一八〇〇円(別紙2のほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額二九九六万五〇〇円を免れ
第二 平成二年八月一日から平成三年七月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一億二八四二万七六三二円(別紙1の2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成三年九月二四日、前記王子税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六五三万二七六八円で、これに対する法人税額が一七九万一一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成七年押第一五四六号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四七三六万二三〇〇円(別紙2のほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額四五五七万一二〇〇円を免れ
第三 平成三年八月一日から平成四年七月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が二三八三万五八九〇円(別紙1の3の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成四年九月二四日、前記王子税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が二三二〇万一五三〇円で、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(平成七年押第一五四六号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額八一二万二三〇〇円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
〔括弧内の番号は、検察官請求の証拠等関係カード記載の番号を示す〕
判示全部の事実について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する各供述調書(二通)
一 大蔵事務官作成の売上高調査書、役員賞与調査書、給料手当調査書、従業員報奨金調査書、福利厚生費調査書、退職金調査書、交際接待費調査書、受取利息調査書、雑収入調査書、損金の額に算入した道府県民税利子割調査書、領置てん末書、役員賞与損金不算入額調査書、交際費等の損金不算入額調査書
一 検察事務官作成の捜査報告書三通(甲33、36、38)
一 望月夏美、大畑博、西原秀一(三通)の検察官に対する各供述調書
一 王子税務署長作成の証拠品提出書
判示第一、第二の事実につき
一 検察事務官作成の捜査報告書二通(甲5、39)
判示第二、第三の事実につき
一 大蔵事務官作成の貸倒損失調査書、事業税認定損調査書
一 検察事務官作成の捜査報告書(甲18)
判示第一の事実につき
一 検察事務官作成の捜査報告書四通(甲2、12、34、37)
一 押収してある法人税確定申告書一袋(平成七年押第一五四六号の1)
判示第二の事実につき
一 押収してある法人税確定申告書一袋(平成七年押第一五四六号の2)
判示第三の事実につき
一 大蔵事務官作成の申告欠損金調査書
一 検察事務官作成の捜査報告書(甲35)
一 押収してある法人税確定申告書一袋(平成七年押第一五四六号の3)
(適用法令)
〔ただし、刑法は、いずれも、平成七年法律第九一号による改正前のものを指す〕
罰条 判示各所為につき、いずれも法人税法一五九条一項(ただし判示第一事実の罰金額の寡額につき、刑法六条、一〇条、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項)、二項(情状による)
刑種の選択 いずれも、懲役刑と罰金刑を併科
労役場の留置 刑法一八条
併合罪の処理 懲役刑につき、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重)
罰金刑につき、刑法四五条前段、四八条二項(判示各罪の罰金額を合算)
刑の執行猶予 刑法二五条一項(懲役刑につき)
訴訟費用の負担 刑事訴訟法一八一条一項本文
(量刑の事情)
本件は、風俗営業の有限会社を経営する被告人が、芸能プロダクション及び進学ゼミナールの株式会社を設立し、あるいは、競走馬を購入して、その育成の株式会社に資金をつぎ込むことによって、これらの会社への事業展開を図り、その将来の事業資金蓄財や、事業資金などの借入金返済などを通じて、風俗営業から脱して、業種転換を企図して売上金等を除外するなどして、過少申告により所得を少なくみせかけ、合計約八三六五万円の法人税を脱税したという事案であり、そのほ脱率は通算約九六パーセントに達している。
右犯行の動機、脱税額、ほ脱率の高さを勘案すると、犯情は悪質で、一般予防の見地からしても、その刑事責任を軽く考えることはできず、厳罰に処すべき事案かとも思案されるところである。
ただ、被告人には、同種前科前歴がなく、本件発覚後は捜査に協力したほか、真摯な反省の態度を示し、毎月一〇〇万円宛分割して、未払税金等などを完済したい旨誓い、当面合計四〇〇万円を支払っている。
さらに、被告人には、同人を頼りとする妻や子供らがいる上、多額の借財があって同人を実刑にすれば、家族が生計に窮し路頭に迷うおそれがあると思料される。
その他、被告人の知人は当法廷で被告人の事業に対する援護を申し出ているし、被告人の更生意欲や自立能力、年齢などの諸事情を総合して考慮すると、被告人に対し社会内で再起する最後の機会を付与するのを相当と判断した次第である。
よって、主文のとおり判決する。
(求刑 懲役一年及び罰金一五〇〇万円)
(裁判官 大谷吉史)
別紙1の1
修正損益計算書
<省略>
別紙1の2
修正損益計算書
<省略>
別紙1の3
修正損益計算書
<省略>
別紙2
ほ脱税額計算書
有限会社ワイ・エム観光
<省略>
有限会社ワイ・エム観光
<省略>
有限会社ワイ・エム観光
<省略>